2014年12月5日金曜日

凧の前縁の重要性

失速モードで飛んでいる和凧ではなく揚力支配で飛ばす凧を考えるならば、前縁は極めて重要だということを思い知らされた。急に不安定になった凧を手元にたぐりよせると、前側の接着がはがれかけていた。ここに流れが入り込むと、左右の対称性が大きく崩れることになる。

後縁はさほど重要ではない。川におとして濡れてしまっても、あるいは片側を失って上昇させたこともある。だが、前縁はとてもデリケートだ。

2014年11月22日土曜日

凧の翼面荷重と風速の関係を考える

翼面荷重という考え方がある。翼面積あたりの重量を、飛行機などの上昇しやすさ、軽さの指標とする考え方だ。凧でももちろん、翼面荷重という考え方が用いられる。


揚力の見積もり

揚力を計算する式は、以下のように与えられる。

L=1/2 ρV^2 S CL

ρは空気密度なので、高度ゼロではおよそ1.3、CLは揚力係数であり0.1~1.4程度になる。凧はテザーによって地上と係留されるから、実際には揚力だけでなく抗力も上昇に寄与する。とはいえ、仰角45度を上回って上昇させることを目論む凧においては揚力だけをとりあえず考えよう。


ρ=1.3, V=1, CL=1,S=1とすると、L=0.65[N]=66gfとなる。
1m/secで重力を上回る揚力を生み出そうとすると、1平方メートルあたり66gより軽いくらいに作る必要があるということだ。風速が2m/secだとすると、揚力は4倍になるから、252gくらいが閾値ということになる。

現実には揚力係数は迎角を浅くすれば1を下回ることも多いし、そもそもつり合いの位置ではテザーの仰角が0になってしまうので、せめて抗力の二倍くらい余計に揚力をかせがないと凧らしくはあがらない。そんなわけで、上の式で概算は数割厳しめに評価すべきだということになる。



風のイメージ

気象庁の用語では、次のように風力が定められている。日本の内陸部であれば、強風というのはめったにないことで、烈風というのはもはや災害級の台風到来の状況だ。

普通は、凧は和風くらいで揚がることが望まれ(翼面荷重200g/m^2)、軟風くらいで揚がると大分扱いやすい(翼面荷重100g/m^2)。



名称風力秒速(m/s)状態
無風00.0-1.4煙が真直に上る
軟風11.5-3.4風のあることを感じる
和風23.5-5.9樹木の葉を動かす
疾風36.0-9.9樹木の小枝を動かす
強風410.0-14.9樹木の大枝を動かす
烈風515.0-28.9樹木の幹を動かす
颶風629.0以上樹木や家を倒す


凧の重さのイメージ

凧を竹と障子紙で作り、伝統的な形状(無駄のそれほどない実績のある形状)であれば、およそ200g/m^2程度には仕上がる。ボックスカイトなどを作っても350g程度には仕上がるのではないだろうか。およそ骨材と膜材の質量比が1:1程度になるだろう。

骨材をCFRPなどにすれば、骨材の重さは半分以下となり、膜材をリップストップナイロンなどにかえれば、膜材も半分程度となる。さらに頑張って数割軽くできるだろう。

感覚的には、竹と障子紙で、軟風で浮かすのはそれなりに剛性の低い凧になってしまうが、現代的な材料を使ってよいなら、余裕で軽い凧を作ることができる。


翼面荷重の考え方

もっとも、数十メートルもあげれば、風速は地上よりずっと速くなることが普通である。したがってそこまで持ち上げることができれば、翼面荷重はそれほど重要ではなくなる。重力よりも張力のほうが支配的になるからだ。そんなわけで、カイトフォトなどをする人たちは、弱風凧と強風用凧を使い分けたりする。概して、弱風用の凧は、平面的なデザインとなり、強風に対しては変形しがちであるため、不安定になる傾向にある。強風用の凧はボックス要素のある凧を用い、剛なデザインを採用するのである。

スポーツカイトのように地上近傍で使う凧では、そもそも地上での、操縦性を向上することを考えて「軽ければ軽いほど良い」ということになるだろう。





2014年11月21日金曜日

回らない凧を作るための基本

1. 剛に作る
2. 垂直尾翼的な空力要素を追加する
3. 柔らかくても精度よく作る

凧は、凧ゆえに糸がつながっている。この糸をつり橋のテザーのように利用することで、構造が柔らかくても常にテンションが張り、変形しないように凧をデザインすることができる。それが、凧のデザインの自由度を生み、飛行機設計には見られない、糸の張力を利用した軽量構造を生み出す。これが、糸目の意義の一つである。

だが、もし十分に剛な凧であるならば、そもそも糸目は一点でよい。だが糸を利用すれば、それよりもさらに軽量化できる可能性があるのである。ふにゃふにゃの凧であっても、糸目によって形状を維持できるという解が存在するのである。

しかし、CFRPやリップストップナイロンのような現代的な材料を利用できるスポーツデルタカイトなどでは、すでに柔らかさを持ったデザインは排除されてきている。傘のように張ったデザインが多いのだ。これは、CFRPの比剛性が大きすぎるため、無理に柔らかいデザインに挑戦する必要が少ないからである。対極にあるのはパラフォイルのようなカイトである。こちらは逆に骨材を完全に排除してしまう。リップストップナイロンの強度が強く軽すぎるためである。一方でCFRPの剛性をもてあまし、一方でリップストップナイロンの素材の強度をもてあましているとさえ言うことができる。

柔らかさと剛さを折り合わせるデリケートな設計がいらなくなったことをこれらの凧が象徴している。逆を言えばさらに一歩先の設計余地があるのだ。


2014年11月20日木曜日

回らない凧を考える

凧が回ってしまうというのはどういうことだろうか?
凧の不安定モードの一つに「回る」というものがある。
回ってしまう凧

回る凧

通常、飛行機設計における姿勢安定においては、ピッチ・ヨー・ロールまわりの安定性を考えればよいが、凧の場合は張力が働いているため、テザーの根本を支点とした回転や振動に対しても安定性を考えなければならない。

不安定に陥ると、まず凧は図の灰色の矢印方向に振動し、さらに振幅が増大すると、天球上を回転する。回転しながら仰角が下がっていき、最悪の場合は高速で墜落することもある。


回る凧を回らなくするには

「回る凧」の起点は、ヨーまわりの振動にある。凧の上反角や尾、キールなどは、ヨーまわりの安定性確保に役に立っている。

作ったばかりの凧がすぐにクルクル回ってしまうような場合、たとえば上反角を大きめにとってしまえば、簡単に安定させることができる。

しかし、おおよそ安定している凧でさえも、強風をうけて不安定になってしまう場合がある。

強い風で回ってしまう凧

おおよそ順調に揚がっていた凧が、高度を獲得したり、風が強くなったタイミングで突如回る凧になってしまう場合がある。そのような場合は、糸をゆるめれば回復するが、どんどん高くあがってしまうと、さらに風が強くなり、途方に暮れてしまうかもしれない。

強風で回りやすくなってしまう理由はなぜだろうか?第一の理由は、糸目と重心のズレ、第二の理由は、形状変形の非対称性である。形状変形の非対称を生む理由は、工作精度の不足や、骨格材料の非対称性(竹の節など)、糸目の左右非対称などである。

普通、凧はピッチ方向の安定性を前後翼のモーメントバランス、ロール方向の安定性を上反角で得ている。理想的な凧では、空気力が増大したとしてもこれらが変化しないように調整されている。

ヨー方向の不安定が生じてしまう理由は、凧が左右非対称に変形し、結果的に「垂直尾翼」が傾いてしまうことにある。実際の凧には、垂直尾翼はついておらず、上反角やキールなどによって風見安定性(ヨー安定性)を得ている。

そのため、まわらせないための第一の方法は、上反角を大きくとり、キールなどの面積を増やし、垂直尾翼として機能する要素を増やすことだ。だが、揚力を減じ、抗力を増加させてしまう。
→ゲイラカイトのキールなど

第二の方法は、凧の剛性を大きくし、強風でも変形しないようにすることだ。しかし、凧の構造を剛にするためには、重量が増加する。
→強風用凧として知られるボックスカイト

第三の方法は、工作精度を高くし、変形の非対称性を小さくすることだ。寸法精度だけでなく、やわらかさも左右均質にし、糸目も理想的な位置に設定する必要がある。
→一見簡単な構造でも、名人の作る凧は安定してよくあがる。

第四の簡単な方法は、糸目を重心より大きく前側にとることだ。空気力の増大が、機首下げをもたらすため、空気力が大きくならなくなる。
ただし、上昇とともに糸にかかる抗力は増大していくので、高度方向の制限が大きくなる。







2014年11月13日木曜日

凧の代表的なパラメータを考える(1)

モデルを作りたい

凧の形を決めるパラメータについて考えてみましょう。飛行機設計と異なり、凧の形状をシンプルにモデル化することには難しさがあります。その理由は、凧の設計には飛行機よりはるかに大きな自由度があるからです。あまり合理的でない形状でも一応のところ凧は揚がってしまう場合があるからです。

あまりに一般化してしまうと、定性的な考察ができなくなってしまうので、モデルを簡単にする必要があります。まずは、設計の自由度を制限するのがよいでしょう。ここでは、高高度にペイロード(荷物)を安定上昇させることを主要な目的とする凧ということにしましょう。わざと不安定にして面白い動きをさせ飛び方を愛でる、、ということを凧遊びの目的にする人もいるでしょうが、ここでは考えないことにします。ここで想定するのはカイトフォトや気象観測に用いることができるリフターカイト(持ち上げ用途凧)です。

さて、リフターカイト(以下は単に凧と呼びます)はどのような形状になるべきでしょうか?


主翼と尾翼のある凧モデル

右図のように凧を考えてみました。
翼面は、「主翼」と「尾翼」に分けて描いています。これは、航空機設計の慣習に従ったものです。

凧は、張力の中心より前側と後ろ側の両方で揚力を生じる必要があり、そうでなければピッチ方向のモーメントが釣り合うことができません。

実際の凧ではこれらは分かれずに一枚に繋がっている場合も多くありますが、実際には前側と後ろ側で揚力が発生しています。前側と後ろ側とそれぞれ主翼・
尾翼と呼んで航空機と対比することで、モーメントのつり合いを扱いやすくしてみます。

また、外見上三つ以上の翼がある場合も同様に、張力中心の前側と後ろ側をまとめてそれぞれ主翼・尾翼とグループ化して考えることにしましょう。

凧にかかる力は、これら二つの翼にかかる空気圧(風に垂直な方向成分を揚力と風に沿った方向を抗力と呼びます)、糸にかかる張力、凧と糸にかかる重力、そして糸にかかる空気圧で、これらの力と、各軸のモーメントが釣り合うとき、凧は安定します。

尻尾

伝統的な凧においては、尻尾をとりつけることがあります。凧の尻尾には、姿勢を安定させる効果があります。


凧は、尾翼を後ろに伸ばす効果があります。これは、尾翼のモーメントアームを増大させることになります。
凧が迎角を増加させて機首上げの姿勢になると、主翼の揚力は増大しますが、同様に尾翼の揚力も増大します。尾翼のほうがより張力の中心から離れているため、尾翼の作りだすモーメントが主翼の作り出すモーメントを上回り、もとの姿勢に戻ろうとします。これが、最も簡単な尻尾による安定性増大の考え方です。

この考え方では尻尾は剛であってもよいことになります。飛行機の尾翼は剛に作られますが、凧の尻尾は、ひらひらの柔らかいものが用いられることが多いです。

まず、尾翼へのアームを剛にしなくてよいという凧固有の事情があります。凧は、飛行機のように操縦しなくてよいので、安定性に寄与しさえすればよいのです。そのため、骨格を必要としません。

凧の尻尾がひらひらで柔らかくするより積極的な理由は尻尾が凧を引っ張る力をより積極的に利用するためでもあります。凧が右に動くと、尻尾は左に流れます。結果的に凧の姿勢を復元しようとする力を生じます。凧の尻尾を長くすれば、より安定させることができるのです。

一方、凧の尻尾は、飛行機の尾翼のように効率よく空気を受け流す形状をしているわけではありません。そのため、凧の尻尾は、抗力の原因ともなります。長すぎる尻尾は、凧の仰角(見上げ角)を下げることになるのです。大きな凧や、精度良く作られた凧は、そもそも凧自体が安定していますので、尻尾をつけません。



親糸と子糸と糸目

地上から立ち上がる糸のことを親糸と呼び、これを分岐させて凧に接続します。分岐された複数の糸のことを子糸と呼び、1本(なし)から多いときは数十本にもなります。子糸と凧本体の接続箇所のことを糸目と呼びます。

凧の糸には複数の役割があります。一つは、地上にアンカーし、風に対して一方的に流されないようにする役割です。凧はその糸ゆえに対気速度が維持され、風がある限り、揚力が常に発生します。糸を無くす代わりにプロペラのような推進器をつければ飛行機になりますし、重力を利用して滑空すればグライダーとなります。

糸には凧の膜構造を支えるための構造材としての役割もあります。凧は、必然的に糸を持ち、糸は凧の自重以上の張力を生じています。ここから吊り橋のように膜構造の複数箇所を支えることで、細い骨で広い翼面を作っても、風圧に負けずに構造を維持できるのです。建築・土木工学でいうところのワイヤー構造を構成することができるのです。

現代の飛行機設計では膜構造が使われずに肉厚な翼型が用いられるのに対し、凧では膜構造の薄翼が積極的に用いられます。その理由は第一には糸が積極的に利用できることにあります。さらに、凧はレイノルズ数が小さく、結果的に薄翼型が肉厚な翼型より効率がよいこと、低速のためにワイヤーの形状抵抗の影響が小さいことがあります。高高度を狙う凧では、そもそも係留糸にかかる抗力が大きいため、翼面荷重を減らして大きな翼面積をとり、面積当たりの重量を減じることの重要性がわずかな形状抵抗の増加よりも大きくなります。