モデルを作りたい
凧の形を決めるパラメータについて考えてみましょう。飛行機設計と異なり、凧の形状をシンプルにモデル化することには難しさがあります。その理由は、凧の設計には飛行機よりはるかに大きな自由度があるからです。あまり合理的でない形状でも一応のところ凧は揚がってしまう場合があるからです。あまりに一般化してしまうと、定性的な考察ができなくなってしまうので、モデルを簡単にする必要があります。まずは、設計の自由度を制限するのがよいでしょう。ここでは、高高度にペイロード(荷物)を安定上昇させることを主要な目的とする凧ということにしましょう。わざと不安定にして面白い動きをさせ飛び方を愛でる、、ということを凧遊びの目的にする人もいるでしょうが、ここでは考えないことにします。ここで想定するのはカイトフォトや気象観測に用いることができるリフターカイト(持ち上げ用途凧)です。
さて、リフターカイト(以下は単に凧と呼びます)はどのような形状になるべきでしょうか?
主翼と尾翼のある凧モデル
右図のように凧を考えてみました。翼面は、「主翼」と「尾翼」に分けて描いています。これは、航空機設計の慣習に従ったものです。
![](https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjYCaDFXLPw1qiXHD819zs8k7oSwoH22GlBk7LWJgG678Ns1Uj7LG8ILaezgVHLH3XcyjoNsjEfuLxRItjlG3XVLusg8DCwbdkxMSJxiRVyWv4OX1yxJYsuubWtMrpzJQbDRz5pl7qVI9tr/s320/kitemodel.png)
実際の凧ではこれらは分かれずに一枚に繋がっている場合も多くありますが、実際には前側と後ろ側で揚力が発生しています。前側と後ろ側とそれぞれ主翼・
尾翼と呼んで航空機と対比することで、モーメントのつり合いを扱いやすくしてみます。
また、外見上三つ以上の翼がある場合も同様に、張力中心の前側と後ろ側をまとめてそれぞれ主翼・尾翼とグループ化して考えることにしましょう。
凧にかかる力は、これら二つの翼にかかる空気圧(風に垂直な方向成分を揚力と風に沿った方向を抗力と呼びます)、糸にかかる張力、凧と糸にかかる重力、そして糸にかかる空気圧で、これらの力と、各軸のモーメントが釣り合うとき、凧は安定します。
尻尾
伝統的な凧においては、尻尾をとりつけることがあります。凧の尻尾には、姿勢を安定させる効果があります。![](https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiBrnXEmToXDOL5cz-dzaIeq7ZYvaGnDu6pXafNjmg9x6GpoABdkYOCcLYFMfW7Wk2O_mmOWJt325u2u9a8vjFqLFk_cDsTKZk11dUkOhkR4_zTcb26B70_waRc2jb1QsTUquVyyfEIRs38/s200/%E5%87%A7%E3%81%AE%E5%B0%BB%E5%B0%BE.png)
凧が迎角を増加させて機首上げの姿勢になると、主翼の揚力は増大しますが、同様に尾翼の揚力も増大します。尾翼のほうがより張力の中心から離れているため、尾翼の作りだすモーメントが主翼の作り出すモーメントを上回り、もとの姿勢に戻ろうとします。これが、最も簡単な尻尾による安定性増大の考え方です。
この考え方では尻尾は剛であってもよいことになります。飛行機の尾翼は剛に作られますが、凧の尻尾は、ひらひらの柔らかいものが用いられることが多いです。
まず、尾翼へのアームを剛にしなくてよいという凧固有の事情があります。凧は、飛行機のように操縦しなくてよいので、安定性に寄与しさえすればよいのです。そのため、骨格を必要としません。
凧の尻尾がひらひらで柔らかくするより積極的な理由は尻尾が凧を引っ張る力をより積極的に利用するためでもあります。凧が右に動くと、尻尾は左に流れます。結果的に凧の姿勢を復元しようとする力を生じます。凧の尻尾を長くすれば、より安定させることができるのです。
一方、凧の尻尾は、飛行機の尾翼のように効率よく空気を受け流す形状をしているわけではありません。そのため、凧の尻尾は、抗力の原因ともなります。長すぎる尻尾は、凧の仰角(見上げ角)を下げることになるのです。大きな凧や、精度良く作られた凧は、そもそも凧自体が安定していますので、尻尾をつけません。
親糸と子糸と糸目
地上から立ち上がる糸のことを親糸と呼び、これを分岐させて凧に接続します。分岐された複数の糸のことを子糸と呼び、1本(なし)から多いときは数十本にもなります。子糸と凧本体の接続箇所のことを糸目と呼びます。
凧の糸には複数の役割があります。一つは、地上にアンカーし、風に対して一方的に流されないようにする役割です。凧はその糸ゆえに対気速度が維持され、風がある限り、揚力が常に発生します。糸を無くす代わりにプロペラのような推進器をつければ飛行機になりますし、重力を利用して滑空すればグライダーとなります。
糸には凧の膜構造を支えるための構造材としての役割もあります。凧は、必然的に糸を持ち、糸は凧の自重以上の張力を生じています。ここから吊り橋のように膜構造の複数箇所を支えることで、細い骨で広い翼面を作っても、風圧に負けずに構造を維持できるのです。建築・土木工学でいうところのワイヤー構造を構成することができるのです。
現代の飛行機設計では膜構造が使われずに肉厚な翼型が用いられるのに対し、凧では膜構造の薄翼が積極的に用いられます。その理由は第一には糸が積極的に利用できることにあります。さらに、凧はレイノルズ数が小さく、結果的に薄翼型が肉厚な翼型より効率がよいこと、低速のためにワイヤーの形状抵抗の影響が小さいことがあります。高高度を狙う凧では、そもそも係留糸にかかる抗力が大きいため、翼面荷重を減らして大きな翼面積をとり、面積当たりの重量を減じることの重要性がわずかな形状抵抗の増加よりも大きくなります。
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